CRMとは? 2つの意味をわかりやすく解説!メリットや機能、選び方のポイントもご紹介
CRMとは「Customer Relationship Management」の略で、日本語では「顧客関係管理」や「顧客関係マネジメント」などと訳されます。ニーズの多様化が進み、新規顧客の獲得が難しくなっている近年、既存顧客との関係性を高めようと多くの企業が注目しているのが「CRM」というマーケティング手法と、ツールです。
本記事では、CRMツールの導入を検討している企業のご担当者向けに、CRMツールの定義をはじめ、求められる背景やメリット、導入に必要な知識、CRMマーケティングの施策例などを解説します。
●目次
CRMとは?マーケティングとツールの2つの意味
CRM(Customer Relationship Management)とは、顧客関係管理や顧客関係マネジメントとも呼ばれ、言葉どおり、企業が顧客との関係を管理する経営やマーケティングの手法として登場しました。しかし、近年では顧客管理をするシステムやツールそのものを指して、CRMと呼ぶケースが多くなっています。
つまり、広義では顧客との関係強化を図るための戦略的なアプローチ全般を指す言葉ながら、狭義では単に業務支援ツールのみを指す言葉としても使われます。
前提として、本記事ではマーケティング手法としてのCRMとツールであるCRMの両方を扱うため、便宜上、前者を「CRMマーケティング」、後者を単に「CRMツール」として呼び分けています。
・CRMマーケティングの施策例
CRMマーケティングでは単に顧客情報を管理するだけではなく、顧客との関係性を強化して、顧客と企業の双方にもたらす利益を最大化するための施策を考えていきます。CRMマーケティング施策としてよく用いられる手法としては、以下のようなものが挙げられます。
・LINE/メール/アプリでの会員向け配信
・リピーター向けキャンペーン・購入特典
・Webサイトの再訪者向け機能・ポップアップ配信
・ウェブ広告
・ファンコミュニティ・イベントの開催
各施策においては「企業が伝えたい情報だけ伝える」という状態は避けなければいけません。目指すべきはあくまで双方の利益の最大化です。「どうすれば買ってもらえるのか」ばかりを考えるのではなく、長期的な信頼関係を築くのがCRMマーケティングの根幹であることは念頭に置いておきましょう。
・CRMツールの活用例・できること
これまでも自社で「顧客台帳」を作成、管理してきた企業は多いと思います。小売が主となる業種ではPOSシステムを活用してきた企業も多いかもしれません。そうした企業からすると、CRMツールは「従来の顧客台帳にいくつかの機能が加えられたもの」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
従来の顧客台帳になかったCRMの機能例としては、以下のようなものがあります。
・売上と顧客の情報を結びつけたデータ分析
・顧客との関係値を反映した点数付け(スコアリング)
・顧客情報のレポート化、ダッシュボード化
・顧客へのメール作成・配信機能
・セミナーやイベント、アンケートなどに使えるフォーム作成
CRMツールは、個人や法人の顧客情報を購入や問い合わせ履歴、過去のタッチポイントなどの行動データと紐づけて細かな情報を蓄積していきます。小売であれば、そこに個人の性別・年齢・地域などの属性情報も加わるでしょう。
提供するベンダーにより違いはありますが分析機能もそなわっているため、蓄積された膨大な情報から、新たなCRMマーケティングの戦略に役立つ示唆を得られるようになります。
CRMマーケティング・ツールが求められる背景
たとえば江戸時代に商人が使っていた帳簿など、日本国内にも古くから顧客を管理するという考え方はありました。ですが、近年注目されているCRMマーケティングは、現代のビジネスにおける経営手法として、1990年代のアメリカで誕生したものを源流としています。現在、急速に普及している背景には、以下のような環境的要因があると考えらます。
・顧客ニーズの多様化・細分化
・営業・マーケティング活動のデジタル化
・既存顧客の効率性とLTVの重要性の高まり
これら3つの背景の要因について、それぞれ解説していきます。
・顧客ニーズの多様化・細分化
大量生産時代を経て成熟した市場では「顧客ニーズの多様化・細分化」が起き、デジタル技術の進化とともに企業が収集する顧客情報のデータ量が増加しています。それに伴い、営業やマーケティング部門では顧客データをもとに、より緻密な戦略を立てていくことが求められるようになりました。
ニーズに合わせて、よりパーソナライズされたサービスを提供するには、顧客を分類してそれぞれのニーズや属性を管理し、最適なタイミングでアプローチする必要があります。そこで、顧客から収集したデータを統合的に扱い、分析を可能にするツールとして、CRMツールが注目を集めるようになりました。
・営業・マーケティング活動のデジタル化
個人・法人問わずユーザーの情報収集や購入活動はデジタルに基盤を移しています。WebサイトやSNSから得られる膨大なデータを扱い、迅速に分析して施策を立てるために、さまざまな技術やサービスが生まれています。
それに伴い、営業やマーケティング組織もDXによる変革を迫られています。膨大なデータを活用し、より効率的な営業活動を行うためにCRMやSFA、MAといったツールが導入されているのです。
・既存顧客の効率性とLTVの重要性の高まり
マーケティングには、「1:5の法則」「5:25の法則」と呼ばれる既存顧客に関する法則があります。
「新規顧客獲得コストは既存顧客の維持コストの5倍かかる」「顧客維持率を5%改善する(例えば離反率を10% → 5%に改善する)と利益率が最低でも25%改善される」※ というもので、既存顧客は商材をすでに知っている顧客層のため、購買アクションに至るまでにかかるコストが低いという考え方です。
さらに、効率的に既存顧客を維持するためには、LTV(Life Time Value・顧客生涯価値)の向上が欠かせません。LTVとは、一人の顧客が生涯にわたってもたらす収益の総額のことで、近年では企業の長期的な成長、収益性に直結する重要な指標として知られています。
既存顧客との絆を深めるCRMマーケティングは、まさしくLTVを最大化しようと務めることでもあります。顧客の購買履歴、嗜好、行動パターンなどをCRMツールで詳細に分析し、CRMマーケティングの施策でユーザーが望むサービスへ案内する。それが顧客満足度の向上につながり、リピート購入や継続的な利用が促進されるのです。
※米国のコンサルティング会社、Bain & Company社の名誉ディレクターを務めたライクヘルド氏が論文で発表
CRMツールの導入メリットは営業活動の高度化・効率化
これまで述べてきたように、企業の営業活動は顧客情報の細分化とともにより高度な戦略が必要になってきています。同時に、日本では“働き方改革”などにより、業務の効率化・最適化も求められています。そうした状況の中、営業活動の高度化と効率化を同時に実現する手段として、CRMツールの導入を選択する企業が増えていると考えられます。
CRMツール導入のメリットをさらに細分化していくと、以下の3つの要素に分けられます。
・情報の共有・一元管理による営業効率化
・属人性を排したチーム内連携の強化
・顧客満足度の向上による売上拡大
それぞれ解説していきましょう。
・情報の共有・一元管理による営業効率化
CRMツールは、これまでバラバラに管理されていた顧客情報を集約し、組織全体でのシームレスな共有を可能にします。商談の進捗、過去の対応履歴、顧客が抱える課題など、重要な情報が体系的に管理されるため、営業活動の品質向上や、部門間の対応の一貫性など、顧客への対応力向上が見込めます。
また、データ分析機能の活用や、レポート作成の効率化により、営業戦略の立案や意思決定がスピーディーに行えるようにもなります。その結果として営業サイクルの短縮、成約率の向上が期待できます。
・属人性を排したチーム内連携の強化
従来の営業活動は、担当者の経験や人脈に依存するいわゆる属人的な要素が多く、担当変更には一定のリスクが伴います。そのため、従業員の欠勤や退職などの必要に迫られた担当変更から、組織の最適化を目的とした人員の配置換えなど、柔軟な組織づくりが難しいという課題がありました。
CRMツールでは営業進捗に関する顧客情報を、同一のフォーマットで管理していくので、担当者が不在になったとしても、別のメンバーがスムーズにフォローできる体制が構築されます。それによってチーム全体の対応力が上がり、顧客満足度の維持・向上へとつながるのです。
また業務を平準化することで、属人性に起因する教育や引き継ぎの問題点が解消され、結果として、チーム全体の生産性向上や個々のスキルに依存しない安定した営業活動が可能になります。
・顧客満足度の向上による売上拡大
CRMツールの導入は、顧客一人ひとりのニーズに応える「One to Oneマーケティング」を実現するための手段でもあります。購買履歴、問い合わせ内容、属性、嗜好など詳細な顧客情報を一元管理することで、個別のニーズに寄り添った提案ができるようになります。
例えば、
・過去の購入パターンに基づいて、適切なタイミングで新商品を案内するメールを送付
・反応したメールによって嗜好性を判断し、好みに基づいたキャンペーンを案内
・問い合わせ履歴を確認してスピーディーで的確な対応を実施
といった、パーソナライズされたコミュニケーションを行うことで、少しずつ顧客との信頼関係を構築し、顧客満足度を向上させることができます。クロスセル(セットでの提案による単価向上)やアップセル(上位品の提案による単価向上)の機会も生まれやすく、LTVの向上が期待できるでしょう。
ただただ満足度向上を目指すのではなく、そこからいかに顧客の次なるアクションに繋げるかを考えるのが、CRMマーケティングであり、CRMツールを導入する大きなメリットになるのです。
CRMツールとSFA・MAとの違い
CRMツールと同じく組織の営業活動、マーケティング活動を支える業務支援ツールとしてSFA(Sales Force Automation)と、MA(Marketing Automation)というものがあります。これらのツールが持つ機能を、マーケティングと営業活動のフローに当てはめて、簡単にまとめたものが以下の図です。
上記の3つのツールは似た機能を持っている(後述)のですが、「特にどのフェーズで有用なのか」を意識すると良いでしょう。上記の図で概要のイメージを掴んだところで、それぞれの具体的な機能に関して解説していきましょう。
・SFA:営業活動を効率化し、属人化を防ぐ
SFAは営業的な視点が強く、基本的な顧客情報に加えて商談内容や営業進捗を管理することで、営業活動を効率化させ、属人化を防ぐことを目的としています。日報や顧客別のタスク管理などの機能が実装されています。
・MA: 見込み顧客の育成を効率化する
MAは見込み客の発見・獲得・ナーチャリングなど、営業活動やそこに至るまでのアプローチを最適化するためのツールです。自動メール配信、ランディングページの作成、スコアリングなどの機能が充実しており、おもにマーケティング施策の効果測定や顧客行動の追跡などを得意とします。
・CRM・SFA・MAの機能は重複している
これら3つのツールの区別が付きづらい理由の一つとしては、「機能が重複している」ことが挙げられます。近年では、各ツールが機能を拡張しているため、SFA・MA・CRMのいずれの機能も入ったオールインワン型のツールも増えています。
以下は、わかりやすくするために重複する機能を図示したものですが、ツールによって保持する機能は異なります。
このように、各ツールの機能は重複していますが、各機能の充実度はツールによって濃淡があるため、第一の目的としてやりたい機能が充実しているかを考慮すると良いでしょう。近年では、ツール同士を連携せずとも、シンプルな機能で良ければひとつのツールでまかなえることも増えてきました。しかし、既に入っているツールとは連携が必要ですし、それぞれの領域で複雑な機能を使いたい場合は複数のツールを導入する必要があります。
CRMツールを選ぶときのチェックポイント
CRMツールは一度導入すると、ツールを変えようと思っても、データの移し替えなどで金銭的・人的コストが発生してしまうため、初めての導入は、慎重に行う必要があります。後悔しないためにも、ここからは最適なツールを選ぶための基準を考えてみましょう。
・【事前準備】目的と使用者を明確にする
先ほど図表でまとめたようにCRMツールはSFAやMA領域もカバーした、さまざまな機能を持ち合わせています。ツール選びでは「何を実現させたいか」という目的を明確にして、どのような機能が充実しているべきかを判断しましょう。
また、既存ツールとの連携や複数領域にまたがるツールを選定する際は、部門ごとに管轄する情報の範囲を明確にしておくことが重要です。
例えば、マーケティング部門ならMAを使った見込み顧客の成否評価まで、営業部門ならSFAを使った見込み客の進捗管理や契約情報まで……といった具合に、各部門で扱う業務プロセスと情報を明確にしておくことで、機能や入力情報が重複することなく連携することができるようになります。
・【事前準備】社内の体制確認
CRMツールで既存顧客との関係を管理するのであれば、ツールを使う営業やカスタマーサクセスの部署の体制が万全であるかを確認しておきましょう。人員が少ないのであれば、初期の伴走支援がしっかりした会社を選定したり、無理に高度化せず、できるだけシンプルな管理項目のツールを選ぶというのもひとつの手です。
エンタープライズ(中規模程度以上の法人)向けの大がかりなツールであれば、それらのツールを管理する人員をはじめ、レポート報告の担当者、社内データベースとの連携を推進する人など、しっかりと体制を作る必要もあるでしょう。
・必要な機能が揃っているか
CRMツールで基本となる標準機能としては、以下の7つの機能などが挙げられます。
- 顧客管理
- 商談管理
- プロモーション管理
- 問い合わせ管理
- メール配信
- データ分析・レポート
- 外部連携
上記の機能に加え、営業支援やマーケティング支援の機能が充実しているCRMツールもあります。ただ、SFAやMAと連携させるのであれば、そうした機能は不要であるといえます。
また、機能が充実していてハイコストなツールを選んだとしても、その機能のうち、一部しか業務フローに組み込まないのであれば、その分だけコストは無駄になってしまいます。
「高価格だから良い、低価格だから使いづらい」という軸ではなく、自社にとってどのツールが最適なのかを考えて選ぶことが、重要です。機能とコストのバランスをみながら慎重にツールを選びましょう。
・使い勝手は良いか
実は、操作性は非常に重要なポイントで、ツールのUIの良し悪しによって、導入時の学習コスト、ツールの浸透にかかる期間、日常的なツールの活用頻度にもひらきが出てきます。直感的な操作ができるかどうか、自動入力やインポート・エクスポートなど、入出力のサポート機能があるかなども確認するとよいでしょう。
最近は少ないですが、SQLなどのコードの知識が必要なものもありますので、導入前に、必ずツールの使いやすさを確かめてから検討しましょう。
・既存のツールやデータベースと連携できるか
現状、自社に導入されているツールと連携できるかどうかも導入を判断する上では大事な要素です。先ほど挙げたSFA、MAとの連携だけでなく、メールソフトやカレンダー、会計ソフト、マーケティングツール、ERPなどと連携できるものもあります。将来的な拡張性も視野に入れて、連携機能に力を入れているベンダーを選択するのもおすすめです。
また、既存のデータベースからのデータ移行がスムーズに行えるかも重要です。導入後に「移行できなかった」という事態に陥らないように、過去の顧客情報や取引履歴を問題なく移行できるかは必ず事前に確認しましょう。
・セキュリティは万全か
顧客に関するデータは企業にとって非常に重要な情報です。万が一、流出してしまうと自社の優位性が失われるだけでなく、顧客にも被害を生じさせ、社会的な信用に影響が出てしまいます。特にクラウド型のCRMツールの導入を検討している場合には、万全なセキュリティ対策を取っているツールを選ぶようにしましょう。
そのためには、トラブルにも迅速に対応してくれるサポート体制と、ソフトウェアのセキュリティアップデートや新機能の追加など、定期的なアップデートやバージョンアップがなされているかも、可能な限り確認しておきましょう。
ツールそのものの脆弱性ではなく、従業員のミスにより情報漏洩が起こるケースもあります。情報管理の教育を徹底するなど、情報漏洩が起きてしまわないように対策を講じましょう。
まとめ
本記事ではCRMについて、マーケティング手法としてのCRMマーケティングの観点と、システム、ツールとしてのCRMを区別しつつ、それぞれのメリットや背景、導入に必要な基礎的な知識を中心に解説してきました。
最後に、実際にCRMツールを導入した企業の営業責任者を対象にした調査の結果を見てみましょう。
「わからない/答えられない」「特にない」の合計が10%程度であることを考えると、約90%の企業で「営業活動の効率化」と「顧客満足度向上」の効果が実感されていることが伺えます。
もちろん、ただ導入するだけで効果が実感できるわけではありません。CRM導入は、目的を明確に定めたCRMマーケティングの戦略があってこそ機能します。単なるツールの導入だけで終わってしまわないよう、CRMマーケティングの目的である「LTV最大化に繋がる顧客満足度の向上」の意識を忘れずに、CRMツール活用の効果を最大限高められるよう、導入を検討してみてください。
〈監修・執筆者情報〉
執筆:
吉岡 伸悟(Hakuhodo DY ONE)
経歴:
2020年にアイレップ(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)へ入社。入社当初よりCRM・データ基盤などのソリューション領域におけるコンサルタントとして従事。不動産関連企業のBtoBマーケティングの立ち上げ時には、市場分析を通じた戦略策定からCRMツールの導入・構築、活用支援策までをPMとして支援。その他にも、大型商業施設の会員基盤整備やデータ分析を通じた獲得・CRM関連の施策プランニングを担当。BtoB・BtoC問わず、幅広くマーケティング戦略・業務設計から実行支援を得意とする。
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