効果的なマーケティングリサーチとは | 仮説思考で正解を導く
マーケティングリサーチとは、市場動向や消費者のニーズを把握するための調査のことで、その調査結果はマーケティング戦略や商品開発の方向性を決定づける要素として活用されます。
マーケティングリサーチの成功には、何が明らかになる調査なのかという仮説の設定が欠かせません。この記事では、マーケティングリサーチの基本知識を押さえながら、リサーチ結果をもとに仮説を検証し、意思決定に活かす方法を紹介します。
●目次
マーケティングリサーチとは?
マーケティングリサーチとは、市場の規模や競合製品、消費者の購買意欲、製品へのレビューなどをデータとして収集・分析し、それをもとにした市場動向やニーズから未来の需要を予測し、マーケティング戦略や商品開発に活かすプロセスを指します。
デジタルマーケティングが普及し、オンライン上のデータ収集や調査・分析も一般的になった現在、精度の高い分析によるデータドリブンな意思決定が求められています。 市場ニーズに沿った商品やサービスで競合他社に差をつけるために、マーケティングリサーチは欠かせない要素なのです。
マーケティングリサーチにありがちな失敗
マーケティングリサーチで起こりやすい代表的な失敗には、調査自体を目的化してしまい、調査はしたものの、その結果から戦略や商品開発に活かせる有益な示唆が得られない、というものがあります。調査の目的である「課題」を深掘りし、具体的で明確な仮説を立てて検証する手順でないと、漠然とした課題に対応する「答え」は調査結果にあらわれないのです。
マーケットリサーチの調査方法や調査できる量が増えている今、具体的な仮説検証項目を立てずとも、それらしい調査結果が出てきますし、膨大な調査結果が共有されます。しかし、ぼんやりとした検証設計では、まとまりのない膨大なデータが出てくるだけで、その中から示唆を得ることが難しいため、戦略に取り入れても効果は期待できません。
だからこそ、どの手法を選ぶのか、どのような項目を立てるのか、といった点をロジカルに定めていく必要があるのです。この記事の「効果的なマーケティングリサーチの進め方」の章で具体的な進め方を紹介します。
市場調査との違いは?
マーケティングリサーチと市場調査は混同されがちですが、実際には目的と範囲が異なります。
まず、市場調査は商品の市場規模や競合の動向、ターゲットユーザーの特性を把握することを目的としています。一方、マーケティングリサーチは市場調査を含むより広い概念です。ユーザーの製品に対する具体的な意見やレビューなどの定性調査も実施し、今後どのような製品が好まれるかを予測します。
|
マーケティングリサーチ |
市場調査 |
目的 |
市場の状態やユーザーの意見から、未来のニーズを予測する |
過去と現在の市場の状態を把握する |
調査・分析対象 |
過去・現在・未来 |
過去・現在 |
調査手法 |
マクロとミクロ併用 市場調査の内容に加え、インタビューやユーザーテストを用いた製品自体への評価も収集 |
主にマクロ 市場全体の消費者の数や嗜好の実態などを定量的・統計学的に収集 |
調査例 |
・テストマーケティング ・モニターテスト ・デプスインタビュー ・CRM・RFM分析 |
・ビッグデータ分析 ・アンケート調査 ・街頭調査 |
また、マーケティングリサーチは市場の把握だけではなく、新商品のコンセプトテストや広告効果の測定、実売データ、Webサイトのアクセス状況など自社製品に対しての反応も収集していきます。それらをもとに、消費者の購買行動、意見、感情を深掘りすることで、今後のニーズを予測し、商品のブランドポジショニングや開発・改善に活かしていくのです。
主要なリサーチ手法の種類
ここでは、主なマーケティングリサーチの手法を紹介します。 大きく自社・競合を含めた市場全体の状態を知るか、自社の状態を知るかで二分されます。
■市場の状態を知る
調査手法 |
調査内容 |
調査例 |
アンケート調査 |
特定の項目に対する消費者の反応や行動パターンなどを知る。Webアンケートや街頭調査・電話などがある |
・製品の利用要因 ・製品の利用状況 ・ユーザーが抱える課題 |
パネル調査 |
一定期間、同一の消費者を対象にアンケートを続け、消費動向の変化を追う |
・製品の利用状況・頻度 ・情報収集の時間 |
ビッグデータ/オープンデータ分析 |
市場の全体的な傾向や動向を知る。一定の大規模調査が必要。政府やシンクタンクのデータも活用可 |
・価格の平均・年間推移 ・利用者数の増減 ・ターゲットの生活様式の変化 |
インタビュー調査 |
インサイトやより深い意見、反応などを引き出す |
・製品選びの思考プロセス ・ユーザーが抱える課題 |
覆面調査 |
商品やサービスの質、接客態度、衛生管理などの実態を把握する |
・競合の商品の陳列方法 ・競合の店舗の接客品質 |
■自社製品の状態を知る
調査手法 |
概要 |
調査例 |
インタビュー調査 |
自社に対するインサイトやより深い意見、反応などを引き出す |
・自社製品の機能への満足度 ・自社製品を選んだ理由 |
商品モニター(ホームユーステスト) |
実際に製品を利用した消費者の意見から、具体的な改善点を知る |
・自社製品の使用感/感想 ・自社製品の費用対効果 |
事前事後調査 |
製品の使用前後でのモチベーションの変化。広告キャンペーンなどのマーケティング施策の導入効果を知る |
・自社製品への購買意欲 ・キャンペーン前後での認知度 |
ネーミング・パッケージテスト |
製品の名称やパッケージを複数案用意し、ユーザーにより好むほうを選んでもらう |
・自社製品の名称 ・自社製品のデザイン ・自社製品のキャッチコピー |
テストマーケティング |
製品を一部地域で実際に発売し、その反応をもとに製品の改修をしたり全国での販売数予測を練ったりする。 |
・一部地域での製品販売 ・Webサービスβ版の公開 |
定量調査は、数値データを収集・分析し、トレンドや消費者の全体像を把握するための手法です。アンケート調査や電話調査が典型例で、多くのサンプルから統計的な結果を得ることができます。
一方で定性調査は、インタビューやグループディスカッションを通じて、消費者の深層心理や行動の背景を掘り下げる手法です。少人数のサンプルを対象とするため、具体的なインサイトを得ることができます。
これらの手法を組み合わせることで、より精度の高いマーケティングリサーチが可能です。次章から、具体的なリサーチの進め方を紹介します。
定量調査は、数値データを収集・分析し、トレンドや消費者の全体像を把握するための手法です。アンケート調査や電話調査が典型例で、多くのサンプルから統計的な結果を得ることができます。
一方で定性調査は、インタビューやグループディスカッションを通じて、消費者の深層心理や行動の背景を掘り下げる手法です。少人数のサンプルを対象とするため、具体的なインサイトを得ることができます。
これらの手法を組み合わせることで、より精度の高いマーケティングリサーチが可能です。次章から、具体的なリサーチの進め方を紹介します。
効果的なマーケティングリサーチの進め方
データに基づいて正確な意思決定ができる、効果的なマーケティングリサーチを実現するには、以下のステップで進めることが重要です。
〈1. 課題抽出〉目標から課題のアタリを付ける
〈2. 仮説立て〉課題の仮説を立て論点を絞る
〈3. 調査手法〉仮説を検証する手法を選定する
〈4. 調査設計〉検証項目を立てる
〈5. 調査実施〉調査を依頼し、実行する
〈6. 仮説検証〉調査データを分析し、活かす
〈1. 課題抽出〉目標から課題のアタリを付ける
最初のステップは、いま向き合わなければいけない一番の課題・イシューを明確にすることです。達成すべき目標や予算に対して、何がボトルネックになっているかを導くためには、まず社内外の現象・事実の参考となるデータを集めましょう。
上記の図版をご覧ください。例えば、売上アップのためには、ユーザーを新規と継続購入(リピート購入)に分け、それぞれが増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのかを確認します。さらに、市場の成長傾向も確認し、売上の伸び悩みの理由が市場の縮小にないか見てみましょう。
上記の場合、新規購入者は順調に伸びているので、課題は継続購入者の減少にありそうだとアタリを付けられます。さらに、市場全体が伸びているにもかかわらず、自社の新規購入数が全盛期よりも低いため、その理由も深掘りする必要がありそうです。
もし、新規も継続も減少傾向にある場合は、それぞれの減少率を見て、より深刻なほうをメインの課題としましょう。
〈2. 仮説立て〉課題の仮説を立て論点を絞る
次に、課題を分解して仮説を立てていきましょう。仮説とは、問題に対する一時的な解答や説明のことです。複数の仮説を立てて優先順位を付けた上で、最も重要と思われる仮説から調査を行います。
例えば、先ほどの「継続購入が伸びない」という課題であれば、まずその課題に影響を与える構成要素(外部環境・店舗・商品・フォロー/サポートなど)に分解し、それぞれの要素で課題が生まれている要因の仮説を書き出してみましょう。
仮説はできるだけすべての構成要素を網羅するように書き出してください。その上で、現状のデータなどを参考にしながら、原因である可能性が高そうなものから優先度を高くしていくとよいでしょう。
そうすることで、調査の方向性や焦点が明確になり、より効率的に解を導き出せるようになります。仮説を設定しないと、適切な課題解決の打ち手が検討できなくなるだけではなく、調査した結果が何に使えるのかわからないという事態が引き起こされます。
〈3. 調査手法〉仮説を検証する手法を選定
仮説を検証するためには、適切な調査手法を選定することが重要です。そのためには、仮説を検証するために考えるべき要素として「論点」を立てましょう。
論点は仮説ごとに異なりますが、できるだけ細分化することで調査項目を明らかにでき、調査すべき内容の過不足がわかります。調査項目をもとに、どのような調査手法がよいかを検討しましょう。
また、このプロセスでは、定量調査と定性調査の両方を考慮する必要があります。例えば、新商品に対する消費者の反応を知りたい場合、まず定量調査で市場全体のニーズや傾向を把握します。その後、定性調査を実施し、消費者の具体的なフィードバックや感情に対する理解を深めます。この2つのアプローチを組み合わせることで、仮説の検証がより精度高く行えます。
〈4. 調査設計〉調査票を作成し、検証項目を決定する
次に、具体的な検証方法や質問内容を定めていきます。具体的な質問は調査会社と相談して決めてもよいですが、少なくとも下記をまとめておくと軸をぶらさずに調査内容を検討できます。
・検証する仮説(想定される要因や解決方針)
・検証する論点(仮説を証明するために検証すべき要素)
・調査方法(どのような手法であれば論点の答えが出るか)
・調査対象(どのような人に聞けば論点の答えが出るか)
・調査項目(どの要素を明らかにすれば論点の答えが出るか)
特に、ターゲットは漠然と定めるのではなく、属性・利用状況などを細かく定めていくと、より精密な検証結果が期待できます。論点と調査方法から検証項目についても抽出しましょう。検証項目とは、リサーチによって明らかにしたい具体的な質問やテーマを指します。
検証項目は曖昧なままで数が少ないと、収集したデータが意味を持たない可能性があります。逆に「とりあえず聞いておく」という姿勢で質問項目を多くすると、示唆や方向性がブレたり、調査費用が高くついたりしてしまう可能性があります。
調査項目が決まったら、下記のような点に注意しながら詳細を詰めていき、調査票を作りましょう。
▼アンケート調査
・欲しい回答をイメージしながら、複数/単一回答、自由記述などの回答形式を選択
・ユーザーが回答しやすい順序を意識する(時系列順の質問、大項目からより詳細な質問)
・選択肢を増やしすぎない
・1つの質問の要素は1つまでにする
・ユーザーがすぐに理解できないような専門用語・難解な言葉を使わない
・恣意的な結果を生み出さない質問を意識する(具体製品名を出さないなど)
・Webアンケートの場合はスマホやパソコンを持っているユーザーのみが回答していることを考慮する
・サンプル数(調査母数)は統計学的に有効な数を保ちつつ、予算の範囲内で選択
(サンプル数が多いほど費用が高くなります)
▼インタビュー調査
・事前に質問項目を渡し、回答をイメージしておいてもらう
・質問の時間配分を決めておく
・必ず回答をもらいたい質問と割愛してもかまわない質問を決めておく
・回答者の答えに質問を重ね、より具体的な利用シーンや用途、きっかけ、感情を深掘りするとインサイトがみえる
・オープンクエスチョン(選択肢の中から選ぶ回答ではなく、自由に回答してもらう質問)を活用する
・インタビュー対象者の反応をみながら、深掘りする項目を選ぶ
・得たい回答によって、グループインタビューと個人インタビュー(デプスインタビュー)を使い分ける
〈5. 調査実施〉調査を依頼し、実行する
調査については、インタビューなどを自社で行う場合もありますが、基本的には信頼性の高い調査会社やリサーチパネルを選定し、依頼を出します。この際、依頼内容が明確かつ具体的であることが重要で、調査の目的や対象者、方法、質問内容など、ここまでに検討した項目を詳細に伝えましょう。
調査会社には、調査だけを担ってくれるところと、どのような調査設計をすべきか相談できるところがあります。相談ができない場合は、前の章でお伝えしたような点に留意して調査を進めていきましょう。
〈6. 仮説検証〉調査データを分析し、活かす
調査が終わったら、収集したデータの整理と分析を行い、仮説を検証します。分析はクロス集計や単純集計などで、調査したデータ自体の整理を行った上で、4P分析や差別化要因分析といったマーケティング分析にまとめます。
具体的な示唆が得られない場合は、そもそも仮説や論点が適切だったかどうかを振り返ってみましょう。示唆があいまいな場合は、仮説の設定が具体的ではなかったために、検証項目や調査方法が手法ありきで適切に設定されていないことがあります。
最後に、分析結果をもとに具体的なアクションプランを策定します。例えば、ターゲット層のニーズを反映した機能の改善やマーケティングキャンペーンの展開などが考えられます。仮説検証の結果をしっかりと活かすことで、データに基づいた効果的なマーケティング戦略を立てることが可能になります。
まとめ
マーケティングリサーチは、市場動向や消費者のニーズを正確に把握するための重要な手法です。効果的な調査を行うことで、新商品開発の成功率を高めたり、既存商品の改善に役立てたりすることができます。リサーチの進め方や手法を理解し、データに基づいた意思決定や自社のマーケティング戦略に直結する知識と方法を身につけましょう。
〈監修・執筆者情報〉
監修:
吉岡 伸悟(Hakuhodo DY ONE)
経歴:
2020年 アイレップ(現 株式会社Hakuhodo DY ONE)に入社。入社当初よりCRM・データ基盤などのソリューション領域におけるコンサルタントとして従事。金融業界やスポーツ関連企業に対するコンサルティング支援において、課題仮説の設計から検証手法の立案、検証の実行といったリサーチ業務を支援。マーケティングリサーチした内容を踏まえ、マーケティング施策や営業戦略の立案・実行支援まで行い、部門の年間の目標数値の達成に大きく貢献。
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