CX強化を成果につなげるために ~CX設計においておさえておくべきポイントと実践事例~

はじめに

CX(顧客体験)強化とは、商品やサービスそのものだけでなく、顧客が商品を知ってから使うまでの体験を改善して、成果につなげる取り組みです。
”CX”という言葉自体は頻繁に聞く一方で、取り組む際は、何から手を付ければいいか分からにくいという特徴があります。

この記事では、

・CX強化についておさえておくべきポイント
・成果につなげるためのCX強化の進め方とKPIの設計
・実際の事例

を紹介します。

●目次

CX強化が成果につながる理由とおさえておくべきポイント

・CXの定義と改善が成果につながる理由

CX(顧客体験)とは、「顧客が商品やサービスと出会い、比較・検討し、購入・利用し、継続・離脱に至るまでのすべての体験価値」のことです(参照*1)。

この一連の体験が良くなると、事業成果に波及します。たとえば、比較の段階で迷いが減れば購入率が上がり、利用中のつまずきが減れば解約が減ります。サポートで嫌な思いをしなければ、次回も選ばれやすくなり、紹介も起きやすくなります(参照*2)。

逆に、どこか1つでも体験が悪いと、他が良くても全体の印象が下がります。そのため、広告、販売、利用、サポートをそれぞれでとらえるのではなく、一連の体験として考えて改善を図ることが必要です(参照*2)。


・CXを「感覚」から「仕組み」に変える基本フレーム

CX強化のためにまず行うべきことは、顧客体験という「感覚」を「仕組み」としてとらえることです。

CX強化が難しい改善背景として、アンケートなどに現れる数値の裏にある、顧客の感情や文脈といった感覚的な部分が捉えきれていないケースが多いです(参照*1)。
そこで、CXを「仕組み」に変えるために、体験を分解して扱います。

具体的にはまず
「どの場面の体験か」を決め、
次に
「何が起きているか」を事実で押さえ、
最後に
「どこを変えるか」を考えます。
顧客の感想ではなく、行動と状況を起点にすることが重要です。

たとえば、「HPが分かりにくい」などの問い合わせが増えたときは、

・どのページで分かりにくさを感じたのか
・どの操作で迷っているのか
・どんな言葉で検索してHPまでたどり着いたか

まで体験を分解して、分析を行います。


・体験の連鎖を分解する”ジャーニー設計”

顧客体験を仕組みへと分解する上で有効なのが、ジャーニー設計です。

ジャーニー設計とは、顧客が商品を購入して目的を達成するまでに辿るプロセスを、時系列の「旅(ジャーニー)」として捉え、体験を設計・改善する考え方です(参照*3)。

これはまず、対象顧客を決めたうえで、

商品の認知

比較

購入

利用

利用の継続/離脱

までの各段階について「顧客の目的/不安/障害/商品との接点」を書き出し、可視化します。

次に、全工程を均等に直すのではなく、成果(購入・継続)を左右する“要所”を特定します。具体的には、比較で迷いが最大化する場面、初回のつまずきなど離脱を生む場面、サポートへの不信が生まれる場面などです。こうした要所を見直し、顧客体験を旅として再設計します(参照*4)(参照*2)。


・一部の体験の悪化が全体の印象を損なうことを防ぐ、ガードレール設計

体験は、悪い出来事のほうが心理的に強く作用し、記憶にも残りやすいため、局所的なミスが全体評価を下げやすい特性があります(参照*5)。

そこで有効なのが、顧客とのすべての接点で守る最低基準を「体験品質のガードレール」として先に決めてしまう方法です。
たとえば

・手続きのステップ数
・待ち時間の上限
・問題発生時の案内

などの下限を設計します(参照*6)。


・業務形態によってCX強化は異なる

CX強化はBtoBとBtoCで、設計が異なります(参照*7)。

BtoCは購入までのプロセスが比較的短く、迷いを減らす分かりやすさやサポートの速さが成果に直結しやすいです。
一方BtoBは、検討期間が長く、関わる人数も増えます。現場の使いやすさだけでなく、決裁者が納得できる材料、導入後の運用負担、社内展開のしやすさまで体験に含まれます。担当者向け資料や、導入計画例などがあるだけで、体験は大きく変わります(参照*7)。

重要なのは、購入時にだけ注目するのではなく、体験を一連の流れで見ることです。また、自社の業務形態、商品購入に関わる人は誰か、といった観点から整理することが必要です。

成果につなげるためのCX強化の進め方とKPIの設計

・現状把握の方法と顧客の声の集め方

CX強化における現状把握は、顧客の声だけではなく、観察とデータと対話を組み合わせて行います。たとえば、問い合わせ内容、解約理由、利用ログ、検索語句、営業メモなど、すでに社内にある情報を集めます。そのうえで、実際の利用者に短い聞き取りを行い、どこで迷ったか、何が不安だったかを具体的に言葉にしてもらいます(参照*8)。

集め方のコツは、体験の場面ごとに分けることです。購入前、購入後の商品利用中、サポートの継続や契約の更新など、場面ごとに顧客の不満は変わります。どの場面の情報が足りないかを確認してから、情報を集めましょう(参照*9)。


・課題の優先順位付けと改善ロードマップの作成

現状把握とVOC(Voice of Customer:顧客の声)収集ができたら、次は「どこから直すか」を決めます。

顧客体験は複数タッチポイントの連鎖なので、全体を均等に改善するのではなく、成果(購入・継続)を左右する体験/ジャーニーや場面に集中するのが現実的です。

まず、分析するジャーニーを2〜3本に絞り、各段階の目的や障害、顧客との接点を並べて、快適な体験を阻害する要因を特定します。
次に、施策候補を、到達人数、期待できる効果、改善できる可能性や行程などで点数化します。
そして、短期目標(すぐ実行できる改善策)→中期(業務プロセス整備など)→長期(体験・プロダクト再設計など)の順にロードマップ化します(参照*2)(参照*10)。


・CX強化を適切に測定できるKPIの設計

KPIは、体験の改善が成果に近づいているかを確かめるための数字です。たとえば、よく使われる指標の1つが、顧客満足度です。

設計のコツは、KPIを1つに絞るのではなく、複数用意することです。たとえば、顧客満足度だけだと、その数値が変化したとしても、原因を特定するのは難しくなります。体験の場面に合わせて、結果のKPIと、プロセスのKPIを組み合わせましょう。購入前なら資料請求後の商談化率、利用中なら初回設定の完了率、サポートなら一次回答までの時間など、行動に近い数字を置くと分析しやすくなります(参照*11)。

もう1つのコツは、比較の軸を決めることです。たとえば、初回利用者と継続利用者、流入経路別やプラン別の顧客満足度などに分けると、体験の差が見えます(参照*12)。


・”北極星KPI”で数字をうまく活用する

KPIをうまく活用するコツは、出てきた数字を関連付けながら、成果につながる道筋を可視化することです。

たとえば、最重要の1指標を北極星に見立てる、北極星KPIという方法があります。これは「顧客に価値が届いているか」と「事業の成長」を同時に示しやすい指標を1つ中心に定めて、業務内容の改善を測定する方法です(参照*1)。まず「顧客が満足した状態」を一文で定義し、そのことを示す顧客の行動を指標候補として3つほど出します。次に、改善可能性などを考慮して1つに絞り、測定期間やターゲット顧客などの定義を決めます。最後に、定められた北極星KPIを、日々改善できる下位指標に分解し、品質悪化を防ぐ監視指標(苦情率など)と、週次・月次の振り返り方法を決めます(参照*13)。

北極星KPIの利点は、CX施策や部門ごとの異なる活動を、1つの軸でまとめられることです。指標が乱立して優先順位がぶれるのを防ぎつつ、下位の行動指標に分解することで、各指標の関係を確認しながら分析をすることができます(参照*14)。


・社内の合意形成と運用体制の設計

CX強化は、顧客体験を一連の流れとして実行するものです。そのため、部門横断的な活動となり、合意形成が滞りやすい課題があります。

進め方としては、まずプロジェクトの関係者をリストアップして、それぞれのの影響力とCX強化への関心の強さで整理します。次に、各部門にとってのメリットを言語化します。たとえば、サポート部門では問い合わせ削減、営業部門では商談化率の向上など、同じCX強化でもそれぞれで得られる成果が異なることを伝えます(参照*11)。

運用においては、最低でも月1回はKPIと顧客の声を振り返り優先順位を更新し、週1回は小さな改善を行うことが必要です。運用を続けながら改善していく体制を構築しましょう(参照*11)。

成果につながったCX強化事例

・バーチャル試着によって購入前のCXを改善

Sephoraの事例

化粧品や香水を扱うSephoraは、購入前の不安を減らすため、ARによるバーチャル試着「Virtual Artist」をアプリとWebに実装しました。
ユーザーは自分の顔に口紅やアイシャドウ等を重ね、複数色を短時間で比較することができます。気に入った場合は、その組み合わせのまま商品ページへ遷移できます(参照*15)。

この機能は、試された色の組み合わせが累計で2億を超え、850万回以上の利用数があり、商品購入を検討する体験に組み込まれています。また、この試着ログは「どの色で迷ったか」を可視化することもでき、レコメンドやコンテンツ改善にも使えます(参照*16)。


・手続きをまとめて”待ち”を軽減し購入・利用中のCXを改善

Disneyの事例

Disney(Walt Disney World)は、旅行計画アプリ「My Disney Experience」とRFIDリストバンド「MagicBand」を提供し、チケットの予約から決済、入場、写真連携などを一つにまとめて顧客の負担を軽減しています(参照*17)。

チケット提示や入退場時、支払い時の混雑が軽減し、よりスムーズな体験が可能になります。運営側は、予約データと混雑状況をもとに人流を平準化し、入口や人気アトラクションのボトルネックにあらかじめ対策することが可能です。実際に、導入後は入場時間が約30%短縮し、滞在価値の底上げにつながりました(参照*17)。


・再利用を促すように更新時・解約時のCXを改善

Spotify Wrappedの事例

Spotify Wrappedは、年末にユーザーの1年の聴取履歴をストーリー形式で可視化し、トップ曲・アーティストなどを短時間で振り返ることができるサービスです(参照*18)。

SNSで共有しやすい演出にすることで、拡散の動機を作りつつ、サービス利用が止まっていたユーザーの再訪や継続利用を促します。実際、Wrapped 2025は公開後24時間で2億人超が閲覧し、共有は5億件に達しています(参照*19)。

解約の理由になりやすい、体験価値を実感しにくいという点を定期的に解消することで、更新・継続の判断を後押ししています。


・サポートを”ブランド体験”と位置づけ、サポート中のCXを改善

Zapposの事例

靴を中心としたアパレル小売店であるZapposは、サポートをたんなる問題処理ではなく“ブランド体験”として設計しました。コールセンターに台本や通話時間の上限を置かず、担当者が顧客の状況に合わせて会話をすることで、他社とは異なるサポートを行っています。実際に、10時間超の長時間通話が行われたこともありました(参照*20)。

さらに、会話の中で返品ポリシーや手続きも明確に提示し、一定期間内での返品を受け付けています。目先の処理効率より、不安の解消などの顧客の感情を優先して、不信感を減らしています(参照*21)。
サポート中に感じる安心を通して、リピートや口コミを生むCXへと転換した事例です。


・AIの仮想アシスタントによるCXの改善

Bank of Americaの事例

Bank of Americaは、AIによる仮想アシスタント「Erica」を通じて、残高照会・入出金の確認・支払い・リマインドなど“日常の用事”を会話で完結できるようにしました(参照*22)。

ポイントは、疑問点を問い合わせることなく自己解決できる体験にしたことです。アシスタントの導入後、デジタルでの顧客接点は年間で260億回超に拡大しており、富裕層向け部門や証券部門でも利用が増えています(参照*22)。

アシスタントの導入により、待ち時間や心理的負担が減ると同時に、よくある用件が自動化されることでオペレーターは高度な相談へ集中することができ、運営効率と体験品質を両立しています。

おわりに

CX強化の施策は、派手な新機能を追加するよりも、顧客の流れの中で起きる小さなつまずきを減らすことが成果につながります。そのためには、体験を一連の旅のようにとらえたあとに、場面ごとに分析を行い、顧客の行動データを通して現状を押さえ、KPIを丁寧に設計することが必要です。

短期、中期、長期それぞれの目標を決めて、改善を進めます。顧客が購買を決めるための大きな要因をきちんととらえて、CX強化の設計を行いましょう。


・参照


〈監修・執筆者情報〉

執筆:マーケティングWeek編集部

経歴:マーケティングWeekの記事編集部です。マーケティング領域に関する展示会を主催し、300近い出展社と数万人の来場者をご支援しています。支援実績を活かしてマーケティングに関わる有益な情報を発信します。


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