2026年下半期若者の動向~「アテンション・デトックス」を実現する消費~|後編

2026年4月22日マーケティングWeek 春 2026にて行われたセミナーに、株式会社SHIBUYA109エンタテイメント SHIBUYA109 lab.所長の長田 麻衣さんが登壇。「2026年下半期若者の動向」をテーマに、いまの若者の消費マインドについて講演しました。前編では、2026年の消費マインドを象徴する3つのキーワード「アテンション・デトックス」「じぶん探し消費」「計画的感情発散消費」を紐解き、SNSの喧騒から離れて自分を取り戻そうとする若者のリアルな葛藤と、その背景にある「疲れ」の正体を紹介しました。

後編の本記事では、こうした若者の心理をいかに企業のマーケティング戦略やコミュニケーション設計へと落とし込み、デジタルネイティブ世代と真の信頼関係を築いていくべきかを深掘りします。Z世代の「外交」と「内省」に寄り添うアプローチ術や、効果測定の新たな指標(KPI)のあり方など、これからの時代に選ばれるブランドになるための具体的な知見をお届けします。

登壇者

長田 麻衣(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント SHIBUYA109 lab.所長)

●目次

1. ②「じぶん探し消費」自分の“好き”を見つける内省体験

アテンション・デトックスによって空いた時間で何をするのか。それが2つ目のキーワード「じぶん探し消費」です。

アルゴリズムが運んでくるおすすめではなく、自分が何を好きなのかを実感し、日々を生きていることを確かめるための消費です。特徴として、すべて「手作り・アレンジ・作業への集中」という要素が共通しています。

▼具体例

お薬手帳界隈: お薬手帳のようなアルバムを作るクラフト
イタリアンチャーム: 時計にチャームを付けるクラフト
BeReal.ノート: デジタルの日々の写真をあえて印刷してアルバムに貼り、日常を手触りのある形で残す
日記界隈・読書会: アナログの日記で自己対話を深めたり、同じ空間で各自が黙々と本を読んだりする活動

2. ③「計画的感情発散消費」安心してハメを外せる場が求められる

3つ目のキーワードは、「計画的感情発散消費」です。これは、計画的に感情を発散するためのアクティビティを指します。

いまの若者はセルフコントロール力が非常に高く、常に「凪(なぎ)」の状態でいようと努めています。感情の起伏を作りたくないから客観的な視点でいる、筋トレのために飲み会の誘いも断る、といった形で自分を律しています。

しかし、ずっと抑えていると発散したくなるのが人間です。そこで、いつ・どこで・どんな感情を出すかを計画的に決めたうえで、ハメを外す行動が生まれています。

たとえば激辛フードでの刺激や、ホラー映画です。ホラー映画は「この映画を見れば怖い思いができる」という確定要素があるため、暗闇で周りの目を気にせず感情を出し切れる場所として映画館が再評価されています。

また、ハロウィンのような季節イベントの楽しみ方にも変化が見られます。渋谷の街中でコスプレをするのは、友達に「あの子コスプレしている」と思われたくない、といった視線を気にして控える子がいるためです。その代わり、素敵なホテルで友達とだけ「ホカンス」をし、隔離された安全な空間で思い切り仮装を楽しむ。安心して感情やストレスを爆発させられる、隔離された空間に需要があるのです。

3. 「企業のアプローチ方法は?」外交と内省の両面で捉える

最後に、これらの消費マインドを踏まえた企業のアプローチについて解説します。ここで重要になるのは、若者の心の状態を「外交」と「内省」という2つの視点で捉えることです。

若者はアテンションに疲れつつも、スマホを完全に手放すわけではありません。デトックスをして自分を取り戻し(内省)、エネルギーを蓄えてから、またSNS上のコミュニケーション(外交)に戻るサイクルの中にいます。企業施策を考える際は、自社のサービスが「外交」に寄与するものなのか、それとも「内省」をサポートするものなのか、どちらの側面に寄り添うのかをまず定める必要があります。


・「外交」への寄り添い

SNSで他人と繋がり、自分を共有して繋がりを感じられる「外向き」の状態へアプローチする例をここで紹介します。企業に求められるのは「自己肯定感を高め、承認欲求を安全に満たしてあげること」です。

例えば、マルチユースコスメやキャラクター人気は会話を生む「視覚的バッジ」としての役割を果たします。コスメをバッグに付けたり、お気に入りのキャラクターを持ち歩いたりするのは、言葉を使わない自己紹介(外交)です。同じ趣味を持つ人と繋がるきっかけになり、周囲に対して「自分はこういう世界観が好きだ」というサインを、過度なアピールなしに「安全に」発信することを可能にしています。

逆輸入日本文化は、周囲への「センスの提示」となります。単なるレトロではなく、「韓国で流行っている日本文化」というフィルターを通すことで、同世代との共通の文脈(コンテクスト)が生まれます。「今これがイケてるよね」という共通認識の中で遊ぶことは、コミュニティ内での帰属意識を高め、センスの良さを安全に提示する外交手段となります。

ギスギスした評価社会(アテンション)の中で、過度な競争を強いるのではなく、「自分をちょっと良く見せられる」「会話が弾むきっかけになる」といった、安心感のある自己表現をサポートすることが鍵となります


・「内省」への寄り添い

情報の洪水から離れ、自分の内面と向き合う「内向き」の状態へアプローチする例を紹介します。企業に求められるのは「デトックスを助け、自分を取り戻す時間を黒子として支えること」です。

例えば、BeReal.ノート・日記界隈はデジタルから「手触り」への回帰となります。24時間で消えてしまうエフェメラルなデジタル写真(BeReal.など)を、あえて印刷してノートに貼る。あるいは、ペンを持って日記を書く。これらのアナログな活動は、流動的な情報の流れを止め、自分の中に「蓄積」させるプロセスです。自分の手を動かし、物理的な「モノ」として残すことは、アルゴリズムに翻弄されない「確かな自分」を再確認する、静かな自己対話の時間となっています。

読書会は心理的安全性が保たれた「一人の時間」です。同じ空間に誰かがいながら、各自が黙々と違う本を読む。これは「孤独」を恐れる一方で「干渉」も避けたいという、現代の若者らしい内省の形です。他者の気配を感じることで「安全」を確保しながら、頭の中は完全に自分の読書体験に没頭する。誰にも邪魔されない自由な内面世界を、集団の中で守るという新しいスタイルの休息です。

若者が求めているのに自力では完結しにくい「デジタルからの解放」や「静かな自分だけの時間」を、企業が環境として整えてあげる。主役はあくまで若者自身であり、企業はそれを支える場所や道具を提供する「黒子」に徹する姿勢が喜ばれます。

4. プロモーションの「質」と「効果測定」のアップデート

アプローチ方法だけではなく、プロモーションの「質」と「効果測定」についても、現在のSNS環境に合わせてアップデートをすべきです。

現在のSNS利用は、不特定多数ではなく親しい仲間にだけ見せる「クローズド」かつ「エフェメラル(一時的な)」であることが大前提です。そのため、かつてのような「バズ」を狙った施策や、拡散を強要するハッシュタグキャンペーンは、今や非常に効果が出にくくなっています。

たとえば、プレゼントキャンペーンに応募してくれる子は今もいますが、それは仲の良い友達に見られないように「サブアカウント」や「閲覧用アカウント」で行われ、しかも当選発表が終わればすぐに投稿を消してしまうケースがほとんどです。企業が期待しているような「フォロワー全体への拡散力」は、実態としてほぼ機能していません 。

こうした実態を踏まえ、企業は「数」を追うだけのKPIから脱却し、効果測定のあり方そのものをアップデートすべきです。視聴回数や拡散数といった単純な数字だけを追うのではなく、「コメントの質」をKPIにするような視点が重要になります。実際に、ある企業では「どれだけ広がったか」だけでなく、「特定の界隈の人たちにどう深く受け止められ、どんな質の反応が返ってきたか」を評価指標に取り入れ始めています。

5. まとめ

今回の講演では、SHIBUYA109 lab.が分析する「トレンド予測2026」の具体例を入り口に、その背景にある若者の深い消費マインドについてお話ししました。

2026年のキーワードである「アテンション・デトックス」や「内省」といった動きは、単なる表面的なブームではありません。SNSが「呼吸と同じ」日常になったからこそ、情報の洪水やアルゴリズムによる制御から自分を守り、本来の感覚を取り戻そうとする若者たちの切実な自己防衛の表れです。

企業が彼らに選ばれるためには、単にトレンドを追うだけでなく、プロモーションにおける「情報フローの設計」そのものを見直す必要があります。無理にアテンションを奪い、不特定多数への拡散を強いるのではなく、若者の不安や悩みを取り除いた「安心の設計」を施策に盛り込むこと。彼らにとって心地よい距離感とは何かを丁寧に設計し、押し付けがましくない形で接点をつくること。それが、今の若者から選ばれるブランドになるための重要な手がかりになります。

本講演で共有した知見が、これからの時代に求められる、より本質的なブランド体験を設計するためのヒントとなれば幸いです。


〈監修・執筆者情報〉

執筆:マーケティングWeek編集部

経歴:マーケティングWeekの記事編集部です。マーケティング領域に関する展示会を主催し、300近い出展社と数万人の来場者をご支援しています。支援実績を活かしてマーケティングに関わる有益な情報を発信します。


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